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出会い系5

 間に合わないな、と思った。
 昔よく耳にしたから覚えている。あの音は、鉄同士がこすれて響きあういびつな音などではない。力のベクトルに負けた短剣が、音ばかり綺麗に弾き飛ばされるそれだ。
 中途半端に鍛えた耳は、いつも取り返しがつかなくなってから働く。ラジウムは引き絞った筋肉に悲鳴を上げさせ、吹っ飛ぶように流れ去ってゆく暗く翳った邸内を見もせず、脳内に焼きこんだ地図を呼び出しもしないで走った。骨のきしむ厭なうなりが細い身体を支配する。
 やっぱり、間に合わなかった。
 薄ら橙の灯りの下、黒い絨毯がてらてらと光っている。錯覚だ。あれは、本来ならば、目に痛いほど赤いもの。
 開け放したままの、大きすぎる扉に隠れたくなった。下手な前衛芸術みたいな床は、それだけでラジウムの波立ちに欠ける神経を至極ささくれ立たせた。
 一等吊り上がった猫のような目が見つめる先、投げ出された腕には、まだ力がこもっている。何しに来たと問うようにラジウムを睨めつける緑色には、まだ力がこもっている。でも、あれはもうほんの少しで最後のそれを使い切ってしまうだろう。残るものなど一雫もないほどに。燃え盛る炎は消えて、滔々と影を落とした闇色に濁るのだ。
 馬鹿じゃないの。声も出ずに動いた口唇の動きで、相手には凡て伝わったに違いなかった。
 じわじわと侵食してゆく黒。いやあれは赤い。床に散った月色の髪が見る間に染まっていって。
 ラジウムは、足元に転がった短剣を拾い上げた。
「死ぬの?」
 月詩は答えなかった。無様に床に這いつくばったまま、ただ、赤い目を睨む。
 毒塗りの短剣。そんな目したって駄目。返してなんかやらない。鈍く光る刃が覗き込んだラジウムの目を、
 横に跳んだ。
 殆ど本能の行動だった。急すぎる動きに一瞬目がついていかない。遅れて流れた腕を、本来ならば喉を切り裂くはずだった刃が薙いだ。起こった風に血が曲線を描いて絨毯に散る。
 相手の位置と次の動作に意識をやったときには、まだ掌と片膝が柔らかい羽毛の絨毯を滑っていた。上体を起こすなりとんぼを切って立て続けに二本、月詩の短剣と、腰裏から抜いた自分の短剣を投げた。
 耳に突き刺さる金属の音が、二度。
 瞬き一つの間にラジウムは月詩の傍まで移動している。広間か何かか、生憎と手近に隠れる場所が見当たらない。床をさざなみのように伝うざわめきが、邸内の異常を知らせている。時間がない。
「いい腕だ」
 それは女の音で男の響きを持っていた。物も云わず気配も感じさせずラジウムに切りかかった刃の持ち主は、音も立てずに立っていた。騎士だと聞いているのに具足の音すらしない。騎士と云ったら相棒のような姿かたちを無意識のうちに作っていた。迂闊に思う一方、灯りの下に立つその人を見て、ラジウムはなるほど納得した。
 確かに、寒気がするほどいい女だった。
 まず目を引いたのは、艶やかに、緩やかに背に流れる長い真紅の髪だった。赤とは云っても、ラジウムのように血を刷いたような赤ではない。燃え盛る炎のような、夕焼けにも近い赤だ。伸びやかな手足は、鉄ではなく革製の防具に包まれ、無造作に提げられた軍刀には一片の血の曇りもない。男と並べるほどの上背ながら体つきは防具の上からでもしなやかだと判る。鎧などではなく、美しい舞衣を着せて酒宴に呼べば如何ほどの声を呼ぶかは想像に難くない。
 だが、そんな夜の甘さを凡て否定し拒絶しているのが、彼女の目だ。蝋燭のつけるきつい陰影の中、吊り上がった細い眉でも、通った鼻梁でも、象牙の肌でも、形のいい口唇でもなく、金色のそれだけが異彩を放っていた。何の感情もない。熱も、冷たさも感じない。
 ラジウムはその目に、覚えがあった。
 視線と意識を彼女に集中させたまま、月詩の傍に腰を折る。腕を取って引き寄せようとしたら思いの外強い拒絶が返ってきたので関節を極めた。自分より一回り大きい身体を、何でもないように肩に背負う。重くないなんて嘘。元々ラジウムの身体は力仕事に向いてはいないのだ。
「どうして殺さなかったの?」
 笑みさえして、ラジウムは彼女に問うた。背の身体が段々と重みを増していくような錯覚すら起こす。あながち錯覚ではないのかもしれない。これは、命の重さだ。布に染み込んで背を流れてゆく命が、もどかしいほど熱い。
 彼女は答えなかった。紅を引いた口唇が、薄く笑んだ。
 ラジウムもそれに笑み返して、後ろへ跳んだ。動けない人一人背負った状態では戦えない。機動力が半分以下に落ちるのは元から、何より、放っておいたらまず間違いなく月詩は死ぬだろう。
 腹が立つのだ。
 死を覚悟しているという態度が嫌いだ。職務、ましてや使命などという曖昧なものに殉ずるというのが嫌いだ。替えが居るという意識が嫌いだ。
 だからラジウムはアサシンが嫌いだ。
 運がよかったのか、それとも元からそういう風に仕組まれていたのか、窓には鍵がかかっていなかった。一階部分では既に上へ下への大騒ぎである。ここが見つかるのもそう遅くはない。家の主人も起きだしたようで、一度出直す必要があった。
 窓枠に足をかけながら、もう一度振り返った。
 彼女の攻撃に気付かなかった理由が、今ならわかる。殺気がまるでないのだ。風情も無く、理由も無く、ただそこに居る。姿ばかりは美しく、空虚な器は人形のそれ。
 ラジウムの嫌いな姿だった。
 闇夜に身を躍らせながら、ラジウムは短剣を邸内に忘れてきたことに気付いた。自分の短剣はともかく、月詩の短剣には毒が塗ってあった。成分から出所がばれる可能性もあるのだが、他愛もないことなので考えるのをやめた。同業者ならともかく、逃げる際にぼたぼたと零した気配を追ってこれないようなチンピラどもに、もしくはそれを雇った主に、つかませてやる尻尾などこれぽちもなかったからだった。
 ワンテンポもツーテンポも遅れて、チンピラどもを二階に誘導している間抜けな黒髪の騎士に、庭を横切りながら心中でありがとうと云った。



 走りながらラジウムは問いかけた。
「死ぬの?」
 月詩は答えない。地面に引きずる爪先はぴくりとも動かない。
「死んでもいいよ」
 ひたすら東を目指した。日の昇る、朝日が特別綺麗な街へ。
「でも、おれがゆるさないから」
 二秒で決着のつく命なら、無くても同じだとラジウムは思う。
 そんなことは、赦されるはずが無かった。
 東へ、東へ。朝日が昇る前に。
 背中で、小さな悪態が聞こえた気がして、ラジウムは少し笑ってみせる。
 夜は、まだ明けない。
 遠く、潮騒が聞こえた。





【一番悪いのは誰?】04.1031.AM7:31
自キャラならなんでもできるのにな。やられるのもかっこいいのも。
人様のキャラをかっこよく書くのは難しい。かっこ悪いのも。
話を進めていく人物は、やっぱり自キャラになっちゃうなあ。要修行。
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by shelldoney | 2004-10-31 22:51 | 小説「出会い系」:完結済

ナインスゲート

昨日は随分走り回りました。
アサ2、マジ1、プリ1でピラ地下で牛さんと遊ぶことに。
結構余裕ぽいので更に足を伸ばしてAマミを狩ることに。
まだTUを持ってないので、苦し紛れの逆リザ攻撃!…が、結構成功するので不思議。LUK1ですよおまえ。
箱からいいもの出ないかなと云いつつ、何も出ませんでした。
記念撮影とかしたけど、直後に全滅とかするし。修羅場!
アサ二人が眠いというので帰還し、マジと二人で居残り組は時計へ。
クロックがまずいという彼女を、時計地上3Fに案内する。
いや、やっぱ無理。
そもそもI>Dのプリがマジの支援すること自体が間違っているような気がしないでもないが、アラム3匹とかマジ無理。加えて本とラグには勝てません。
2Fをうろついてもさすがロキ、敵より人が多いです。
そんなとき、
「1Fをうろつかないか。」

…。

「見渡す限り、本、カビ、本本、カビ、本。」

…。

まあ、そんな数居ないしね。










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まあ、MPKだったわけですけれども。
時計地上1Fには常と云っていいほどMPKのクルセが居るらしいですね。
IWがあれば足止めできるのになあ。…喰われつくす前にハエで逃げちゃうかな。
ヽ(`Д´)ノムキィと云いながら帰還し、結局全部平らげました。ごちそうさま。
場所さえわかってれば怖くないですね。
次からフィノとは時計地上1Fをうろつくことにします。思いのほかうまい。
二週間以内にレベルが70になったらいいなあ。臨時で監獄にこもりきりです。
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by shelldoney | 2004-10-31 05:45 | RO日記

We are the Stars

言い訳ごにょごにょ。
字書きを自称している癖、まったく恥ずかしいことながら、私は常に軽いスランプです。(まあそのスランプというのも、プロでもないのにと思うんだけども)
たまに、勢いにのって書き出す話っていうのはある。
そのまま勢いにのって書き終わる話っていうのもある。
キャットファイトとか、いざ書き始めてから勢いが出たりするのがほとんどだけど。出るのが遅くて延びたりする。〆切ぶっちぎるのはよくないですね。
しかし改まって書く、となると大抵が最初だけ、とか、一部分ばかり。
出会い系にしろ、最初はせっせと書けたのに、今は手が動かない有様。
何かを書こうと思うと、視覚化されたシーンが浮かぶ。私はそれを天使と呼ぶが、その下りてきたシーンを私が文章にした途端に、天使は去ってしまう。
イメージを文章にする稚拙さ。それができないからみんな悩むんだろう。
気力充填して、続き書きます。
ムードでも天使は下りてくるものだ。
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by shelldoney | 2004-10-24 17:35 | 雑記

出会い系4

 二秒だと、ラジウムは云った。
 今も昔も、アサシンが「仕事」をするのに与えられた時間は二秒のみ。それで仕留められなければ負けだ。特別な注文がなければ、苦しむことなく送ってやるのだと。そう教えられたから。
 だが、二秒で決着のつく命なら、無くても同じだとラジウムは思う。
「いっそ二人で逃げるとか」
「ついに沸いたか」
 ラジウムが逆手に握ったダガーが、騎士の喉に押し当てられている。
 リリィが刺突の形で構えた十字剣が、アサシンの心臓に定められている。
 二秒で、否、どんなに時間があったとて、終わらせられるわけがなかった。
 ラジウムはリリィを裏切らないし、逆も然りだ。理由は無いし必要無い。
 間近で鼻を突き合わせながら、失笑すら漏れた。
「本当、お互いリアルラックまでめり込んでるよね」
 どうしようもないよと云って、ラジウムはダガーを引いた。くるりと手の中で一回転させれば、次の瞬間にはダガーは手品のように消え失せ、腰裏の鞘に戻っている。うんざりと溜息混じりにリリィも頷き、剣を鞘に戻した。
 ラジウムはさっそく踊り場に座り込み、一人作戦会議を開催している。どちらも合理的に報酬を得る手立てはないものか。つまりは、両方が両方とも仕事を成功させればいいわけだが。
「……あるわけないか、そんな美味しい話」
 生来直感で行動するラジウムは、物事を余り深く考えない。ゆえに、考えるのは余り好きではない。ゆえに、考えるのは余り得意ではない。ゴーグルから飛び出た赤毛を指に絡めて、相棒を見上げた。
「雇い主、黒なんでしょ?」
「先立つものにゃあ勝てねえってこった」
 白だったらよかったのに。未練がましくラジウムは呟いた。それなら、こちらが撤退する正当な理由になったものだが、生憎この邸の主人は、金に物云わせた正真正銘の腐敗物であるらしかった。こちらが報酬ニ分割なのに対し、きっとリリィは二倍以上の金額をもらうことになる。
 仕様が無い。細く落とした溜息が、血のように赤い絨毯を転がった。自分は愛用のカタールの研ぎ代さえ手に入ればいいのだ。元より金に執着は薄い。自主撤退をネタに、リリィにねだって払ってもらえばよい。厄介ごとは避けるに限る。
 ただ一つの問題は。
「納得してくれるかなあ……」
 ラジウムは跳ねるようにして立ち上がった。一緒に撤退するであろう銀髪のアサシンを思う。一度帰ってリリィの報酬を確認したら、文字通り「一人で充分」な仕事を彼に任せるつもりだ。成功の暁には報酬も全額月詩に渡るはずだが、あの様子ではどうにも金のために仕事をしているようには思えないのだ。
 騎士はなろうと思ってなるものだが、アサシンはそうではない。少なくとも憧れるべき職業ではない。使命だとか、忠誠だとか、そういうものを背負っているアサシンは少なくないが、ラジウムに云わせればとんだ勘違い野郎である。
 だからこわい。
 月詩からは、生きる匂いがしないのだ。最優先事項は任務の遂行。敵に背を向けるのを恐れ、迷わないように自分を戒め、自害用の毒をいつでも持ち歩く。細い糸の上を歩くような、そんな危うさ。
「そっちの相方は、どんな人? いい女?」
 ともあれ、そんなことはリリィに話すようなことでもなかった。女が護衛に雇われるとは、さぞ腕の立つことだろうと思い、ラジウムは好奇心半分に訊いた。
 唐突な質問にリリィは肩を竦める。ラジウムの話にはいつも脈絡が無い。
「寒気がするほどいい女」
 茶化してリリィは答えた。ふうんと途端面白くなさげな顔になったラジウムが、暗い冗談を飛ばす。
「おれの相方も、寒気がするほどいい男」
 まったくもって、寒気がするほどに。
 寝室の場所を目で問えば、顎をしゃくって応えがくる。ありがとうと鎧に包まれたぶ厚い肩を軽く叩いて脇をすり抜けたラジウムの、
「ね。そのいい女とおれと、どっちかって云われたら、どっちとる?」
「莫迦云うな」
「もしそうなったら、どうする?」
 軽い声で、軽い音だった。厭な冗談だとリリィが眉をひそめたときには、猫と呼ばれるアサシンの姿はなかった。
 知った気配の残滓が頬を撫でる。視線を向けた先には薄墨を刷いたような闇色。一体全体何なのだと首をひねって、リリィは気付いた。
 金属音。
 遠くで、誰かが戦っている。
「ラジ?」
 短い問いが、血のように赤い絨毯を転がった。



【いいおとこの去り際】04.1002.PM5:47
続きものにすると、自分に甘くなるのがよくないです。
ここは別にカットしてもいいシーンだったのじゃないかと、今更思ってもしょうがない。
キリのいい最初と最後(自分観点)に徹すると、ぶつぶつ切れてしまうのも、アレか。
プロットを立てないのも、アレだなあ。
多分10話じゃ終わらないような気がする。
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by shelldoney | 2004-10-03 02:16 | 小説「出会い系」:完結済